リリーフ投手をWARで測ることの難しさ

SNSやなんjなどを見ていると、リリーフ投手のWARは先発に比べて低く出るという意見をたまに見ます。この「低い」という言葉の意味はどのような文脈で使われているのかによるのでしょうが、基本的に考えられる「低い」の意味は以下の意味でしょう。

先発投手に比べて不当に評価されることによってWARの数値が低い

不当に評価というか、DELTA社の算出しているWARはリリーフを過小評価しているという言い方の方が印象がいいでしょうか。まぁ同じ意味ですけど。これ以外で低く出ると言っている人は特に深い意味がなく、単純に数値として低いという意味で言っているのでしょうが、これはまぁその通りですとしか言えませんし、特に話は発展しません。

今回は、「先発投手に比べて不当に評価されることによってWARの数値が低い」という意見についての僕の見解を論じていこうと思います。

感覚でも理解できる当然の考えとして先発投手はリリーフ投手に比べて優先度が高いポジションです。これは昔からも、セイバーメトリクスが発展した現代においてもその結論は変わらないとされています。ここに対して疑問がある方はいないと思います。いたらちょっと話が進みません。

リリーフは先発が一人で平均でも5.7回程度(NPB2021~2019データより)投げるのに対し、リリーフ一人の投手は基本的に1回しか投げません。先発はある程度ペース配分を考慮して長い回を投げて試合を壊さないことが求められるのに対し、リリーフの仕事はとにかく無失点でその回を投げることが求められます。そのため、全力でそのイニングを抑えるために選手の能力を注ぐことができます。それ以外にも先発は何度も同じ打者と対戦しなくてはいけないのに対して、リリーフは一度しか対戦しないため、「目の慣れ」に左右されないなど、リリーフが先発に対して、難易度、優先度ともに低い理由はいくつも考えられます。リリーフの方が先発に比べ成績が良いのは当然の傾向といえましょう。

ただ、問題の本質はそこではないでしょう。「先発投手に比べて不当に評価されることによってWARの数値が低い」という意味で意見を言っている方にこれを言っても納得される方はいないと思います。

では、なぜこのような意見が出るのでしょうか。そもそもリリーフ投手の目的とは(勝ちパターンでの起用を想定)良い投手に長く投げてもらうという発想ではなく、良い投手に試合の勝敗に関わる重要な場面でたくさん投げてもらうという発想での起用法です。ですが、WARはそのような試合の勝敗に関わる重要な場面での活躍も全く関係ない場面での活躍も区別せずに評価し、なるべく公平に評価するように設計されています。そのため、WARはリリーフ投手の起用法の目的とあまりそぐわない評価方法かもしれません。

確かにこれには一理あると思いますし、最初にWARを見た方はこのような疑問を抱いても全く不思議ではないと思います。実際に、MLBのWAR算出サイトであるFangraphsやBaseball-Referenceではこのような考えから、局面の重要度を客観的に測定した指標を使って、その分WARに補正をかけることでWARを算出しようということを行っています。ちなみに私の知る限りDELTA社ではこのような算出を行っていないはずです。だからこのような意見がうまれるのです。

リリーフ投手のそもそもの起用法の考え方とWARの公平に評価しようという考えは確かにあまり一致していないです。そのため、あくまでWARで選手のパフォーマンスを評価したいときに重要度を算出に組み込むこと自体は特に疑問はありません。

ただ、これは所謂勝ちパターンでしか当てはまらない評価方法だと思います。説明するまでもなく当然なのですが。僕が鈴木昭汰が勝ちパターンと先発以外での起用はもったいないと言っているのはこのためです。まぁその話は置いといて。

ここまで話してきましたが、僕は先発に比べてリリーフが過小評価されているとはあまり思いません。リプレイスメントレベルの設定が不適切ではないかという指摘なら理解できますが、(実際に不適切であるかどうかは問題ではなく)そのような意味でこの意見を言っている方は少ないでしょう。

選手のプレーがどれだけ得点を創出、失点を防いだことが分かることによって、勝利にどれだけ貢献したかを表す指標なのにも関わらず、リリーフ投手の評価が感覚とずれた数値を示しているという点は僕個人としても理解できます。ただ、あくまでLWTSの得点期待値から考えたプレーの価値によって選手を評価しようという視点において、WARは公平な評価を行おうとしようとしていると僕は思うからです。その点においてリリーフが不遇されているということではありません。

そのLWTSの発想自体がリリーフ投手(勝ちパターン)の使い方の発想とマッチしていないだけで、WARによって選手の価値が貶められる、過小評価されるものではないと思います。リリーフ投手と先発投手の貢献度を測る際に”WARだけ”で議論するのがナンセンスなのではないかというだけの話だと思います。

今回はリリーフがWARによって過小評価されるものではないという視点で書いたので、ちょっと勘違いされる方がいるかもしれないので釘を刺しておきたいのですが、リリーフのWARに現れない貢献度を否定もしませんし、そこはそこで区別して評価するべきと僕は考えています。2017年MVPがサファテになった件でも、サファテのWARが3.3なのに対し、柳田や秋山のWARはそれを遥かに凌駕したものでした。だからMVPの選定がふさわしくないのような意見もまた短絡的だと思います。

まぁこれはMVPの選考の難しさという別の問題も絡んでくるので今回はこの話は割愛。

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