BABIP(Batting Average on Balls In Play)とか今更僕が語らなくても良いのですが、色々目的があって活動しているのでこういう記事も増やしていこうかなと思います。
この話題の発端としては西川遥輝の成績が2021年に急激に低下したことに対するこのようなツイートが散見されたこと。
この方だけでなく、色々似たようなツイートはあったのですが、反応が多かったこの方のツイートを引用。
結論から言えば、この方の言っていることは概ね正しいと僕は思います。僕も西川の成績は多少回復する可能性は十分あると思っています。もちろん、はいじゃあ話終わりではないです。
今回はまぁ補足というかそれに付随してBABIPに対するよくある誤解について話していこうかなと思います。
BABIPを一言で語るのは難しい
前提として、BABIPの定義を説明しておこうと思います。シンプルに言えば、「本塁打を除いたインプレー打球がヒットなる確率」です。定義してはこれだけです。とてもシンプルな指標でありながらセイバーメトリクスの発展に貢献した指標でもあります。
そして、BABIPは「運」を表す指標として扱われることが多いです。これは「フェアゾーンに飛んだ打球がヒットになるかどうかは、投手ないし打者個人の能力“だけ”で決定できない」事実に由来しています。これ自体は長い統計の研究から分かった事実で、僕の知る限りは反証はできていないです。大体、この確率は3割前後に収束することも分かっています。
BABIPの定義の話はこんなもんで良いと思います。
あれ?西川の通算BABIPは.347と言われているけど、西川は通算5000打席も立っている打者なのに全然収束してないじゃんと思われるかもしれませんが、先ほど太字で強調しましたようにBABIPは完全に運によって左右される指標ではないです。BABIPの難しいところ一つ目です。
ちなみに、被BABIP(投手視点のBABIP)はほとんど実力でコントロールできないと言われています。これはこれで別の議論が必要となる話ですので、今回は割愛します。今回話す話題はあくまで打者BABIPの話です。
通算で高いBABIPを記録している選手として有名なのは柳田やイチロー、近藤だと思います。イチローはデータを入手するのが面倒くさいので柳田と近藤の通算BABIPを紹介しますと、こんな感じです。
通算成績 | 打率 | BABIP |
柳田 | .319 | .375 |
近藤 | .308 | .356 |
非常に高いBABIPを記録していますね。こういうのを見てこんなことを言い出す人たちもいるのですが。
これはネタだからマジレスするのはナンセンスだとかそういうのは置いといて、かなり本質とかけ離れた議論が行われています。ソースはあった方が良いので一応画像は載せときます。
大体3割に収束するにも関わらず、かなりの打席数がありおおよそ3割には収束しそうにもないこの選手たちですが、これはBABIPの考え方が間違っているとかそんな話ではありません。
簡単に理解できる例としては、2021年セリーグでは投手の打席が1552打席ありました。リーグ打率は.101でリーグBABIPは.206でした。仮に「運”だけ”」でBABIPの高低を説明でき、全て3割前後に収束するのならば、この問題も打席を重ねれば3割に収束することになります。
しかし、誰しもがわかると思いますが、そんなことはあり得ません。実力のない打者のBABIPは永遠に3割に収束することはないです。BABIPに打者の実力が関与できる要素があるのは自明です。「運」を表す指標ということだけを齧って、議論していると全く見当違いな意見を生むこととなります。
これで分かったと思いますが、西川の通算BABIP.347というのは西川の実力による底上げがあった数値で不思議な数字ではないのです。
西川の打撃がある程度回復するであろうという根拠
ここでツイート内容の話に戻りますが、西川の打撃回復の根拠とは、通算BABIPに対して、2021年の西川のBABIPが極端に低いから2022年は打撃成績が回復する可能性が高いと見込んでいるのでしょうか。
答えはノーです。
一番多い誤解はこれだと思います。そんな単純な話ではありません。当たり前ですが、BABIPと打率に強い相関があります。相関係数は0.768です。(1950~2019NPBの成績から。対象期間を変えるとまた違う結果になります)
これが意味することはある選手の打撃成績が落ち込んだ時に、それが運が悪いことによる低下によるものなのか、単純なパフォーマンスの低下なのかまでは分からないということです。
例えば、ベテランになった名選手の打撃成績が落ち込んだとしてもそれはパフォーマンスが低下したからと解釈する方が多数だと思います。その選手のBABIPも同時に通算成績からは離れた数値を示してることでしょう。しかし、その打撃成績の低下の原因をBABIPの低下によるものと解釈する方は少ないと思います。みなさんも頭の中で理解していることのはずです。今回伝えたかったことの大体はここです。
先ほどの実力が関与できる要素があるというところに話が繋がりますが、実力によって3割以上のBABIPをキープできる余地があるのならば、実力の低い打者のBABIPは3割より大きく下回ったBABIPを記録してもそれは必ずしも不運によるものではないはずです。
では、何をもって西川のパフォーマンスは劣化しておらず、選手の能力の低下によってBABIPが下がったのではなく、単純に不運だった可能性があると言っているのかというと、彼の打席でのアプローチに明確に劣化したと言えるような要素がないためです。
アプローチと一言にまとめてしまいましたが、例えば、BB%,K%,BB/K,Hard%などの指標です。これらの指標が通算成績と見比べても明確に低下したとは言えず、彼の打撃のパフォーマンス自体が明確に落ちたと言われるような根拠が薄いことがBABIPの低下が不運によるものの可能性が高いと考える根拠です。これには先ほど紹介したツイート主であるNamikiさんも触れています。
ここまで分析してやっと打撃成績の低下が不運によるものの可能性が高いと判断することができるのです。BABIPが低い=不運によるもの、BABIPが高い=幸運によるものとただちに判断することが必ずしもできないということが理解できたと思います。
本当に西川の打撃は復活するのか?
最後に小話。
最初にツイートを紹介したときに「概ね正しい」だの、「多少回復する可能性は十分ある」だの随分曖昧な表現をしましたが、ちゃんと理由があります。
- 我々には観測できない原因による本人のパフォーマンスの低下の可能性も捨てきれないということ。
- 守備指標は年々劣化しており、身体能力自体は明確に落ち込んでいるということ。
- IFH%(ゴロ打球に占める内野安打の割合)の明確な低下。
最初の理由はまぁ保険みたいなものです。あんま気にしなくていいです。
二番目は打撃とは関係ないだろと思うかもしれませんが、身体能力が落ちるということは当然走力は落ち込みます。走力の低下は当然三番目の理由に直結します。彼の打撃成績だけのキャリアハイは2020なのですが、2020は内野安打を17本放ち、IFH%は10.7%でした。ちなみに2019年は30本放っていて、IFH%は13%です。しかし、2021年は内野安打は9本で、IFH%は5.3%です。
彼の総合的な指標(WAR)によるキャリアハイは2016年から~2018年の期間になるでしょうが、2017,2018も内野安打は2021年よりは多いもののそれぞれ15,13本とあまり多くはないので、理由としてはちょっと弱いかもしれませんが、全盛期より内野安打による打率の底上げがしにくいのは事実でしょう。
あと気になる指標としては打球のうちのライナーの割合が10%前後から~12%前後で推移していたのですが、21年は6.5%まで落ち込んでいます。当然ライナーはヒットになる確率が高い打球です。打率の高い打者は大抵ライナーの割合は少なくとも9%前後はあります。
西川のこの割合はかなり落ち込んでいますが、これが打撃能力の低下によるもののと安直に考えていいものなのかは正直分かりません。ただ、こういうデータもあるのでちょっと必ずしもBABIPが回帰すると断言はできないのではないかというのが僕の見解です。まぁ必ずしも回帰しないというのはある意味当然の結論なのですが。
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