シンカーの有効的な使い方を探る

セイバー関連

前回の続き。前回の記事はこちら。

前回の調査では、コース、打者投手の左右、2ストライクか否か、ボールゾーンからストライクゾーンに入ってくる軌道のボールで調査を行った。その結果、フロントドアやバックドアと言われるような軌道のボールは確かに見逃しを取りやすいということが分かった。その中でもボールからストライクゾーンへのシンカーは打者や投手の左右を問わずにゾーン内での見逃しを取る上で貢献度が非常に高いことが分かった。

なおかつ、ゾーン内での見逃しを取る能力は投手側にスイングするか否かの決定権はないが、選手の能力にある程度依存することも分かった。

次に、具体的に見逃しを多くとれている選手の特徴を探る。

シンカーを投げれば見逃しが取れる?

まず、2021年と2022年のデータを使い、ZLが高い選手を一人一人BaseballSavantで眺めた。その結果個人的にシンカーを一定の割合で投げる投手が多いように感じた。よく投げる投球コースも合わせて確認していたが、シンカーがストライクゾーンからボールゾーンへ入ってくるような軌道を多く投げているわけではなくともZLが高い選手、そのようなボールを多く投げ、ZLが高い選手など様々存在した。この調査をする前はSwing%が低い場所へ投げるコマンドが最も重要と考えていたため、意外な結果ではあった。(全体の傾向としてどうかはまた別の話)

次に、個人的に感じたシンカーを投げている投手が見逃しが多いのではないかというのが事実かどうかを確認する。

まず、2022年のデータ(前回の記事でもそうだが、シーズン途中のため数値は確定していないが十分に試合が行われているのでそこは問題ないとした←記事公開日追記:紛らわしいのだが、このセクションではシーズンが終了してない段階での数値だが、「シンカーで失点を防ぐコース」以降は2022年シーズン全日程終了段階でのデータを使用している)では、100打席以上対戦した投手に関しては、ZL/In_Zoneの平均は32.6%となった。それに対し、シンカーを投げている選手に限定した平均は33.2%となった。これが意味のある差なのかは正直良く分からない。

しかし、これはシンカーを投げたかどうかで分類したので、シンカーを1球でも投げていればシンカーのグループに含まれる。そのため、シンカーの投球割合が15%、20%以上の選手で再度確認したところ、それぞれ34.2%と34.4%となった。正直これでもはっきりとは分からないが、確かに割合は増えている。そのため、2021年以前でも同様の傾向が出るかも確認する。statcastデータが導入された2015年までの検証。

結果はこちらの表。

2018以下のサンプル数も大体同じ。ほぼ同じなのに確認して書くのが面倒くさくなったので省略。表のグラデーションはその年度ごとになっている。

ZL/In_Zoneは年度別で平均が結構変わるようだ。そして基本的にはシンカーの割合を増やせば増やすほど割合があがっているように思える。この差がどの程度インパクトがあるのかは今回は検証していないが、わずかであっても必ず(シンカーの投球割合が40%あたりからは違うが)シンカーを投げる場合の方が全体に比べ割合が高いということはシンカーを投げることで見逃しが取れるというのは事実らしい。最初に思った直感はある程度正しかったようだ。

シンカーで失点を防ぐコース

ここまでは見逃しが取れるかどうかに重点を置いていたが、実際に見逃しが取れるゾーンが最終的に失点を防ぐことに貢献するのかを確認する。(RV/100やxwOBA)

ここで、シンカーという球種そのものに注目してみると、フォーシームと比べると縦変化量が小さく、シュート変化が大きい。フォーシームの中でシュート変化が大きく、ライズしない球は一般的には成績が悪くなりやすいが、シンカーでもそれは同じで、フォーシームと比べると空振りが取りづらい球となっている。(一般的な傾向の話。詳細はこちら。)しかし、メリットもある。細かく見れば変化量や球速にも依存するが、フォーシームと比べると打球角度を抑えやすいのだ。

ここで貼ったリンクでは、最終的に失点を防げるシンカーは基本的に球速が速い、縦変化量が小さい(より沈む)球、横変化量は打者のインコース側への変化量が大きいほどxwOBAを抑え込めるという結果となっている。通常シンカーはシュート変化が大きい球種のため、右vs左、左vs右の勝負では打者のアウトコースの方向への変化してしまうために一般的には不利になりやすいようだ。

ここまでの傾向をまとめると、スイングされた時のリスクが大きい球種ということとなる。にも関わらず、シンカーをボールゾーンからストライクゾーンの軌道で投球することで非常に多くのストライクゾーンでの見逃しを取ることが可能となる。被長打の確率を下げながらも空振りと”ほぼ”同じ効果を期待できる見逃しを取れるというのはかなり理に適った使い方に思える。

2022年のデータを使って、MLB全体のシンカーのコマンドについて検証してみた。

まずは投手と打者の左右でグループ化して、Attack Zonesという概念で投球割合を分類した結果。その結果はこちら。あまり傾向は読み取れないが、比較的左投手のシンカーの方がストライクを取れている。ちなみにAttack Zonesの定義はこちらから。

Attack Zones上の投球割合からではあまり効果が読み取れなかった。次は、前回の記事で分かった見逃しを取れるゾーンがxwOBAやRunValueを他のコースと比べ抑えられているのかを探る。しかし、MLB Zone Profileの緑枠は、ストライクゾーンを表すわけではなく、プレートの中心を0とし半径2feet以内を色付きで囲っているだけのため、新たにゾーンを定義する。

ゾーンの定義

BaseballSavantから手に入るデータplate_x*30.48(単位をfeetからcmに変換後)の範囲が-21.6から-7.06(ボール約2個分の範囲)を右打者のインコース、7.06から21.6をアウトコースと定義。左打者はインコースとアウトコースが反対。高さの下限はsz_botの平均値*30.48とした48.70618。上限はsz_topの平均値*30.48の103.1408。plate_z*30.48が48.70618から103.1408をストライクゾーンの高さで定義した。(ボール約7.5個分の範囲)低め高めの定義としては、それぞれplate_z*30.48が48.70618~66.88118と84.9658~103.1408とし、ゾーン内を9分割で考えた。イメージとしては下の図。

いちいち真ん中高めとか言うのが面倒くさいのでこの記事上では、この9分割を左上から順にZone1,2,3…と定義する。投球ゾーン(投手視点)と書かれたところは無視してもらいたい。

結果

 

基本的にはボールゾーンからストライクゾーンに入ってくる軌道、つまりは比較的見逃しが取れるゾーンのRV/100、xwOBA共に良い。しかし、全グループでそれなりのサンプル数を用意をできてはいる(RR:53054,RL:27799,LR:21690,LL:10335球)が、Pitch%を見れば分かるように成績の良いゾーンはそもそも投球割合が少ない。投球割合が少ないから(見慣れないから)成績も良いという因果がある場合、大雑把でしかゾーンの効果を把握できない。また、ゾーン区分によっては300球程度しかないものもある。その場合の結果球のみに絞ったxwOBAはさらにサンプルは減る。サンプルが減ることで起こり得る懸念として、このゾーンに投げている投手の球質そのものが良いからゾーン別の成績が良い可能性もある。2,022年より以前のデータも使い、球質によってグループ化をすることで、球質による過大評価分を割り引いて考えることも可能だが、一人の選手のサンプルよりは明確に多いため、球質を考慮せずとも、このゾーンがシンカーを投げる上で有効であると”ある程度は”言えるはずだ。

ただ、左右不一致の場合のRL,LRにおいて、それぞれZone4と、Zone9のRV/100が同じコースと比べると不自然に悪い。原因としてはxwOBAやストライクコール率だろうが、なぜxwOBAが悪いのかまでは分からない。

まとめ

左右不一致のシンカーは基本的には投手不利となるが、フォーシームの球質が悪いからツーシーマーになっている投手はどうしても左右不一致の打者との対戦が苦手となる。(球質の悪いフォーシームを投げるか不利なシンカーの選択に迫られるため)その場合でもシンカーを投げるコースをフロントドア中心にすれば球質を変えずとも一定の効果は期待できそうである。実際、結果球であるxwOBAは非常に改善している。

ただ、改善が期待できる新球種を開発するのが良いのか、球質を変えるのが良いのか、コマンドを変えるのが良いのか、どれがその選手にフィットするのかまでは今手元にあるデータでは分からないため、こうすればいいという簡単な話でもない。そもそも比較的成績が悪くなるのに速球を投げる必要があるのかという問題もある。またタイミングがあればこの調査もしたい。

データは全てBaseballsavantから。

 

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