バントに大きい戦術的価値があるとは考えにくいのは僕が今更語るまでもないことです。まず最初に結論として「バントは有効な戦術ではない」と主張すると得点期待値表はどの投手が投げてるのか、どの打者が打席に立っているのかを考慮できていないとかなんとか耳タコの反論がまず返ってくるのが容易に想像できます。
バント否定論が理解できない方は、正直僕が解説するのもバカらしいので他の人がものすごく丁寧に解説してくれているのでネットの文献で勉強しましょう。ネットはいいですよ。無料でスマホですぐ情報が入手できるんですから。これを使わない手はないです。
正直自分の知識とかいう全くアテにならないものより調べて手にいれた情報の方が確からしいと思います。僕もセイバーへの知識はあるつもりですけど、あれDERの計算式ってなんだっけとかしょうもないこと調べたりしながら書いてます。そろそろ本編。
NPBとMLBでのバント数の違い
MLBでは~とかよく聞きますけど具体的にMLBでどの程度バントしているのかイメージできてる人って案外いない気がします。MLBよく見てる方ならすぐわかるでしょうけど。
実際のデータからNPBとMLBでバントの数にどれだけ差があるのか見ていきます。一応補足しますけどここでいうバントというのは全て犠打、つまりは自分はアウトになるつもりでランナーを進塁させることだけを目的とした作戦のことを指します。つまり使用するデータも犠打の数です。
こちらは2021~2012年の犠打が記録された数のMLBとNPBの比較です。
こうしてみるとNPBも少しずつではありますが減少傾向にあるように見えますが、まだまだ遅いというか多いです。MLBも結構してるじゃんと思う方もいるでしょうが、MLBは30球団の合計値かつ162試合あります。SH/G/Teamという僕が勝手に作った1チームの試合数あたりの犠打成功数を表す指標ではこのようになります。
こう見るとやはりめちゃくちゃ差があります。正直犠打という記録のつけ方がかなりロジカルじゃないので、成功数のみでしか語れないのですが、失敗数も含めたらNPBが犠打を試みた数はもっと増えそうです。MLBも増えるでしょうが、NPBの方がやはり母数は大きいでしょう。
バントを良しとする人の主張
日本でもセイバーメトリクスへの理解は大分進んだかのように思えてきますが、やはりメディアでの露出は本当に少ないです。MLBほど中継で一般人がパッと見で分からない指標持ち出して流さなくてもいいと思いますけど、出塁率やOPSすら中継でメインスタッツとして流すところは少ないです。打率、本塁打数、打点なんて選手の本質的な評価する上ではあまり関係のない指標です。
そのような論調なので、バントが一般的にはほとんど価値がないと否定するなんてそりゃ受け付けないわけです。2010年代前半までは各チーム1試合に1回はバントを成功させていたレベルですから。
その人達のよくあるような反論を色々探していきます。ただ正直集めるのが面倒くさいのでなんjとかのまとめサイトから引用します。
- そもそも得点期待値って一点取れるかどうかじゃなく何点取れるかの考え方だから一点だけ取れればいい場面に期待値とか言い出すのアホやろ
- ノーアウト1塁も後続の打者次第では十分有りな数字やんけ
終盤の同点とか1点差なら普通にバントも選択肢には入るやろ
最初からバントしないと決めれるなら守備側も楽になるしな
- これはチーム状況によるだろ
大谷個人軍みたいだったら糞だけど
川相の後にクロマティやら原や松井やら清原やらローズやらいたらバントで正解だろ
指標の欠点ってその時のチーム事情考慮なしってとこだよなあ
- セイバーのバントの効率ってどうやって算出してるんだ
もしかして過去4年間の全チームのバント試行回数の平均値を出してるん?
もしそうならそれを持ち出して川相が得点効率を下げ続けた男と評価するのはナンセンスではないですかね?セイバー持ち出して評価するのであれば、川相の全打席、川相がバントした後ろの打者の全成績をすべて洗い出して、セイバーと比較してどれだけ効率が上がったか下がったかを比較するべきではないか?
- そもそも打てる時は打たせるんだから統計的なバント時の得点期待値が低いのなんて当たり前なんだよな
- バントの統計データはあくまで作戦考える材料の一つであって、それ自体が答えじゃねーだろ。打者と投手の力量も調子もその日によって違うんだから。こいつらが言ってんのは、ストレートと変化球では変化球の方が打たれる可能性低いから変化球投げろと言ってんのと大差ない。
引用サイト:http://blog.livedoor.jp/nanjstu/archives/58935685.html
もうキリないのでやめますけどマジでこういうのが無数にあります。まぁ一部的を射てるようで的を射てないのがなんか厄介なところって感じです。
ここの元スレが川相の内容に関する話なので結構そっちに話が引っ張られて議論がごちゃごちゃになっちゃてるのもあれですね。別にこのサイトにコメントの文字数制限とかはないと思いますけど、ネットでまともなコミュニケーションしようとするのが本当に難しいことが良く分かります。
まぁMLBでもわずかながらバントがあるように僕も0にできるとは思ってないですし、100%どんなシチュエーションでもダメかと問われると検証せずとも多分そうはならないと思います。それは十分理解した上でNPBはそれでも多すぎます。正直多くても3試合に1回、理想は10試合に1回程度が僕の感覚での適正だと思ってます。それにこれはNPB全体での数値ですので、チーム単位では未だに1試合に1回くらいのペースでやっているチームもあります。
問題の本質
色々否定されてる方はいますけど、どれも反証に値しないのでとりあえず置いときます。否定の論拠があまりにも脆弱なので、この人たちの批判の本質的な部分は「自分が正しいと思ってたものが否定された時の不快感」からくるものだと思ってます。誰しもこういう経験はその「正しいと思ってたこと」が善か悪かは置いといてその瞬間はやはり不快だと思いますし、仕方ないと思いますしそこは別にいいです。
ではなぜ「バントが有効である」という価値観が植え付けられているのかという問題につながります。
僕の考えではこのツイートはなかなか的を射てるなと思ったので引用させてもらいます。
打者:「犠打1」という評価が得られる
ベンチ:攻撃に何らかの工夫を与えたという世論を得られる
守備:楽に1アウト貰える
観客:得点圏に走者が進みチャンテなどで盛り上がれるといった感じでwin-winの関係が結ばれるのが、バントというプレイの功罪だと考えます。
— 有希っこ (@YUKI_tigers0626) May 30, 2021
特にここでいう「ベンチ」と「観客」の構図が大分悪さをしてるように思えます。バントを成功させたときにまるでもう点が入ったかのように実況や観客も盛り上がりますし、ベンチも必ずと言ってよいほど拍手でバントを成功させた選手を出迎えます。
僕はこうなっている空間に本当に違和感を覚えます。まず拍手なんかするなよ。そこで満足すんなよ。って。チームの目的は多くの場合はより多く点を取ることであって併殺回避と1点狙える場面を作ることが目的ではないはずです。得点なんか同点のサヨナラチャンス以外でいくら取っても無駄ではないんです。それ以外「1点で良い」なんて場面基本存在しないはずです。
バントではなく進塁打を放った時に使う言葉って「最低限」だと思いますけど、バントを成功させたときは「最低限」なんて言葉使わないですよね。しかし、過程はどうあれ結果は全く同じことなのにも関わらず「犠打」という特別の扱いをされた記録になり、片や「凡退」が記録されます。
そのうえでさらに観客やベンチに歓声や拍手で出迎えられます。この一種の異様な空間を作り上げてしまっていることが「バント」という作戦がなくならないポイントかなって思います。
戦術と戦略
「でもデータで出てるようにバント減ってるからいいじゃん、お前が言わなくても色んなとこで言ってるしそんな騒ぐなよ」的な反応も予想できそうなので最後に小話します。
確かに、少しずつではあるものの、ちゃんとバントは減りつつあります。少しながらでも、一部の拒否感はありながらも減っています。ただ、まとめサイトのコメントでもあったようにバント否定論者をバント肯定論者が圧倒的に上回っているとは考えにくいですし、僕がいちいち反論に対するカウンターを説明するまでもなく、バントが有効な場面は限りなく少ないです。
だからこそバントを否定し続けてもさして問題はないし、良い影響しかないと僕は思ってます。今後野球の価値観がアップデートし、やはりバントは有効な戦術であったと明確な根拠と正確な検証のもとで証明される可能性がまぁほぼないでしょうが、あるかもしれません。その時はその時でいいので、今は間違いなく強力な理論のもとで有効な戦術とは言い難いのでいくら否定しても間違いではないはずです。
で、「戦術と戦略」って見出しを付けましたけど、長々と話してきたところ申し訳ないですが、めちゃくちゃ多くても1試合1犠打程度しかしないなら長期的な得点にさして多分”大きい”影響はないです。監督の采配面でよく注目される部分としては、試合中の作戦とか打順とかが注目されがちですけど、この辺は多少適当でもめちゃくちゃ悪影響があるわけではないです。ただだからと言って明らかに最善ではない手を打つ必要性は一ミリもないです。
作戦や打順は「戦術」面の問題だと自分の中では定義してますが、本当に監督の手腕として差がでるのは「戦略」面だと思います。この「戦略」が具体的になんなのかと言えば、一例で言えば誰をどこのポジションで起用するのかってところです。これが一番監督として差がでる部分のはずです。
イメージしにくいかもしれませんので具体的な選手を使って考えます。オリックスには昨年ブレイクを果たした宗という選手がいますよね。彼なんかまさにうまく配置したことによってブレイクした選手だと思います。彼は前からたまにサードを守ったりはしてましたが、完全にサードにコンバートした結果優れた身体能力から繰り出される素晴らしい守備能力でチームに高い貢献を果たしました。彼のWARはキャリアでもほとんどの年がマイナスでしたが、いきなり4.0を記録しました。これは本当に大きなことです。
WAR4.0の選手の攻守での平均に対する得失点差の寄与は大体+20点です。(この数値の裏付けは結構面倒くさい話になるので飛ばします)そして、宗は攻撃、守備で両方で平均に対して+10点程度貢献しました。オリックスの前年までのサードは宗、福田、大田、大下、西野など本当に様々な選手が打席に立ちましたが、全選手のwRAAは-8.6です。平均に対して-8.6点攻撃でマイナスを出していました。これが約10点プラスに変換されるわけですから打撃だけで平均に対する得失点差に+20点も寄与できています。
宗自身の成長もあったのは間違いないでしょうが、このWARを出せるポテンシャルを秘めていた選手をちゃんと見極めて早い段階からサードに固定できたのは中嶋監督の手腕が光ったところだと思います。バント否定記事書いといてなんですけど、やっぱりこういうことを考えた方が絶対に有意義です。
監督の手腕の評価というのはチームによっても監督がどこまでチームに干渉できるのかが全く異なるので1次元的に評価するのは非常に危険ですが、その次元の一つとしてはやはり長期的な戦略面のなので正直この辺を議論した方がもっと有意義なはずです。
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