見逃しを取りやすいボールは存在するか?

セイバー関連

セイバーメトリクスの普及によってどのようなものが失点を防ぐことに貢献できるかが明らかにされるようになった。ことピッチングにおいては空振りが失点を防ぐために貢献することが分かっている。理由は単純確実にストライクを増やすためだ。

だが、同じくZone内に投げられたボールも(誤審もあるため確実ではないが)ストライクを増やすことができる。今回は見逃しを取りやすいボールがあるとしたらどのようなボールかを探る。

左右ごとに分けたゾーン別のスイング率

まず、打者にスイングされにくいゾーンを調査してみる。BaseballsavantにMLB Zone Profileという機能があるが、これは投手打者の左右、カウントごと、球種別でスイング率を可視化したものだ。ゾーンにカーソルを合わせることでサンプルサイズやWhiff%と打率も見ることができる。また、ChartをSwing%ではなくWhiff%、打率に変えることも可能だ。

こちらは右対右。左がカウントや球種の選択はなし。右は2ストライクカウントの場合。

一般的には右対右の勝負ではアウトコースはスイング率が低い傾向が読み取れる。しかし、空振りが評価される理由は、当たり前だが、2ストライクカウントでは打者はストライクゾーンのほとんどをスイングしてくるためである。しかし、2ストライクカウントでも、打者はアウトコースのスイング率が低いようだ。

こちらは右対左。並べ方は同じ。

こちらは右対右とは少し違う傾向が読み取れる。右対右ではインコースとアウトコースを見比べた時に2ストライクでも、アウトコースの方がスイング率が低かったが、右対左では、2ストライクカウントにおいては左打者は対角線となるインコースのスイング率が低い。しかし、一般的にはアウトコースが見逃されやすいのは同様の傾向のようだ。

次は左対右。

こちらも右対左と同じような傾向だ。一般的にはアウトコースのスイング率が低いものの、2ストライクになるとインコースのスイング率が低くなる。

最後は左対左。

右対右の傾向と同じく、一般的にも2ストライクでもアウトコースのスイング率が低いのは変わらないが、どの高さに置いてもアウトコースのスイング率が50%を切っている。

これだけを見ると、対角線となる場合は2ストライクではインコースに投げ、違う場合はアウトコースに投げれば、スイングされにくいとなる。投球でアウトコース中心の配球になるのはリスク回避の観点からは正しいと言えるかもしれない。しかし、普通に考えて球種によってゾーンに入ってくる軌道が違うのだから、どんな球でもそこにコントロールすればいいというわけではないはずだ。

バックドアやフロントドアのスイング率の傾向

個人的な感覚ではバックドアやフロントドアと呼ばれるようなボールゾーンからストライクゾーンに入ってくる軌道のボールは見逃しを取りやすいような気がする。次にこれを調べてみる。

この機能上の球種選択は割と幅広いのだが、とりあえず、右対右のバックドアであるシュート系のボールを見たいが、ここではシンカーをその対象としてみる。(2シームもそうだが、データが一個もなかった。恐らく全てシンカーで登録されている。)

なかなか顕著にスイング率が低い。2ストライクカウントであるにも関わらずここまでスイング率が低いのは見逃しを取る上で右対右のバックドアが有効であるという明白な事実だ。

右対右のフロントドアである横滑り系も載せておく。(ここではスライダーとカッターが対象)上がカッターで下がスライダーだ。

確かにインコースのスイング率が低いようだが、バックドアほど顕著な傾向はないようだ。カッターの2ストライクカウントではインコースの一番下が54%ほどだが、投球数が28しかなく、サンプル不足の可能性もある。それに加え、特にスライダーは同じスライダーという分け方でも縦に大きく曲げるタイプなどもあれば、横に滑らすタイプなど色々幅が広い球種であるはずのため、この結果を単純に信じるのはあまり良くなさそうだ。

次は右対左。先にフロントドアであるシンカーを調べる。

右対右のフロントドアは見逃しを取るという観点ではそこまで顕著な傾向は見えなかったが、右対左のフロントドアは非常に見逃しを取るという観点においては有効なようだ。

バックドアであるスライダー系は以下。上がカッターで下がスライダーなのは同じ。

こちらは先ほどのフロントドアとは違い、一般的にはやはりスイング率はかなり低いことが分かる。しかし、2ストライクカウントでもシンカーと同じレベルまでは見逃しを取る球としては機能していないようだ。

次は左対右。並べ方は同じ。

やはりシンカー系の軌道でボールからストライクに入ってくる軌道は投手打者の左右問わずかなり手がでづらいようだ。

右対左の傾向とそっくりなことが分かる。

同じような図ばかりで飽きてるだろうし、私も頭がおかしくなりそうだが、最後に左対左。

右右に比べてもやはりかなりスイング率が低いようだ。

今回はスライダーのみ掲載。カッターの左左のサンプルがかなり小さいためだ。やはりシンカーよりも有効性が小さい。

ここまでの傾向をまとめると、ボールゾーンからストライクゾーンに入ってくるシンカー系の軌道は打者、投手の左右関係なくかなり見逃しが取りやすく、2ストライクでも相当見逃しが取れるようだ。スライダー系の軌道は2ストライクでは見逃しを取ろうという観点ではそこまで有効ではないようだ。しかし、大事なのは失点を防げるかどうかなので、見逃しが取れない=この投球に価値がないということではない。あくまで今回検証しているのは見逃しが取りやすいボールである。

Zone Lookingの年度間相関

しかし、今回まとめたことは2022年のMLBの選手の平均的な傾向であり、選手個人単位で見れば違った傾向が現れるはずである。

そこで、前回xxFIPという指標を紹介した際にZone LookingというZone内での見逃し率を計算したが、そこに年度間相関や能力で関与できる余地がある場合、また新たな見逃しを取りやすい球質などが分かるかもしれない。まずは2021年と2022年のデータを使ってZLに年度間相関があるかを調べる。

これは2021年と2022年の両方で25人以上と対戦した選手に絞って調査した結果だが、これは結構弱いながらも年度間相関自体はそれなりにあると言ってもいいはずだ。

そもそもコース、球種、左右別のスイング率の傾向が顕著に出る時点で、コマンドなどの能力は介在していると考える方が自然だ。ちなみにこの指標は見逃しを取った数ではなく、ゾーン内への投球数でZLを割ったレートスタッツでプロットしている。

こちらは両方で100打席以上対戦した投手に限定したが、さらに年度間相関が上がった。サンプリングの問題があるのかもしれないが、やはり先ほどの検証で分かるように、能力で見逃しはとれるようだ。ここまででかなり長くなってしまったので、今回はここまでで、次回にゾーン内の見逃しを多くとっている選手の傾向について探っていく。

データ提供元は全てBaseballsavant

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